放送大学群馬学習センター
平成24年度面接授業

面接授業1日目 
2012年12月8日(土)
講義 「たんぱく質とDNA(生命の化学)」


  
昨年に引き続いて三回目の面接授業。タイトルは「たんぱく質とDNA(生命の化学)」で、8日は講義、9日はDNAに関する実験をやることにした。実験は昨年あるいは一昨年と変更し、また講義資料もそれに応じて大幅に変更した。今回の面接授業は放送大学の正式単位として認定される。
  
  実験を行うため受講者の数に限りがあり、結局全員で18名の受講者があった。DNAに関する実験が珍しいためか、群馬以外に埼玉県、長野県、新潟県からの受講者もあった。

  朝10時に受講者が講義室に集合した。20名の受講申請者がいたが、18名の出席者であった。今年も老若男女、また、経歴も色々で、さすが放送大学と感ずる。資料をを配布しパワーポイントでプロジェクターに映写しながら講義を行った。

 講義の概要は昨年とほぼ同じだが、2日目の実験内容を変えたのでそれに合わせて講義の後半も大幅に変更した。
    1時間目は10:00〜11:25で、
      主要な生体構成物質とその役割、相互変換、ATP, アミノ酸とたんぱく質、たんぱく質の役割、酵素、ヘモグロビン
    2時間目は11:40〜13:05で、
      核酸(DNAとRNA), DNAとRNAの構造とその役割、生体内での生成、たんぱく質の生体内での生成、たんぱく質生成の調節
    3時間目は14:10〜15:25で
      人の細胞、染色体、DNA, DNAの解析技術(DNAを分子の大きさで分ける、微量なDNAの増幅、DNAの検出)、遺伝子工学
    4時間目は15:40〜17:00
      遺伝子組み換え、遺伝子組み換え作物

  個々の詳細な話は省略したが盛りだくさんの内容である。受講者はこの分野について殆んど知らない人ばかりなので理解していただけたかどうか危惧する点である。 しかし、質問をしてくれる受講者もあり皆さん熱心に聞いてくれた。

   最後の帰り際に面白かった、役に立ったと感想を述べて帰られた方がいる反面、ついて行けなかった理解出来なかったという方もありなかなか難しい。

  一年ぶりにぶっ続けに立って話をしたので、昨年同様、最後の時間になるとのどが痛くなり足が少しつってきて痛くなった。5時に終了時間となりホッとした。

  
面接授業2日目 
2011年12月9日(日)


実験: 大豆、大豆食品中の組み換え遺伝子(DNA)の検出

 
 一昨年の面接授業ははお酒の代謝分解に関与する酵素(ALDH2)の遺伝子の正常型と変異型の違いを調べる実験、昨年はヒトのDNAで16番染色体のPV92と言う箇所にあるAlu配列の有無を調べる実験を試みた。いずれの実験も受講した学生さんが自分のDNAを頬から取り出して実験に用いた。

  今年もDNAの抽出,PCRにDNAの増幅、PCR産物の電気泳動による分離、蛍光検出の実験をやることとした。但し、サンプルとしてヒトのDNAで無く、大豆あるいは大豆食品、飼料中の組み換え遺伝子DNAの検出実験を試みることにした。

  個人的には遺伝子組み換え作物については問題無いと考えているが、日本国内では強い拒否反応がある。それにもかかわらず、日本国内には遺伝子組み換えの大豆、トウモロコシ、菜種などがアメリカから大量に輸入使用されている。食品中の組み換え遺伝子作物がどうなっているか興味が持たれる。DNAに関する実験はいろいろやったことがあるが組み換え遺伝子の検出実験をやったことが無いので一度はやって見たかったし、学生さんにも興味がもたれる実験だと思われる。

  遺伝子組み換え大豆の検出実験は放送大学北海道学習センターで富田先生と名古屋学習センターの加藤先生がすでに行なわれていることを知り、お2人の先生に実際にやっておられる状況をうかがい資料をいただいた。

  この面接授業の受講者はこのような実験になれていないし専門家になる訳でもない。お2人の先生より送り頂いたプロトコールを拝見するとDNAの抽出に時間がかかりそうで、私がやろうとしている2日目だけの実験時間では時間的に少し無理がありそうである。バイオ関係の試薬を販売しているBio Rad社が教育用してアメリカ国内のみで販売している遺伝子組み換え検出キットが簡単に出来そうだったので特別に購入して予備実験で試してみた。その結果、PCRはDNAポリメラーゼを別途加えれば問題無く行くが、DNAの抽出はバラツキが多く説明書にあるようには簡単に行きそうもないことが分かった。

  そこで、食品中や植物からDNAを抽出するキットをいくつか試した所、試薬販売会社タカラが販売しているドイツのマシェリー-ナーゲルと言う会社のNucleoSpin Foodが食品中のDNAを簡単にしかも確実に抽出できることが分かった。そこで、放送大学での学生さんの実験はこのNucleoSpin Foodを用いて大豆や大豆食品中のDNAを抽出し、Bio Rad社のPCR用溶液にさらにDNAポリメラーゼを加えて抽出したDNAのPCR増幅を行なうことにした。


  現在、日本国内では遺伝子組み換え作物は栽培されていない。しかし、大量の遺伝子組み換え大豆、トウモロコシ、菜種などがアメリカ、カナダ、ブラジルなどから輸入されて使われている。飼料などは殆んどが遺伝子組み換え品であろう。また、菜種油、大豆油、醤油、コーンスターチなどの加工食品もその原料は殆んどが遺伝子組み換え品であろう。これらは加工過程で組換え遺伝子や組換え遺伝子に基づいて作られたたんぱく質が除かれている。

  同じ加工食品でも豆腐や納豆などは加工過程でも組み換え遺伝子や、組み換え遺伝子に基づいて作られたたんぱく質が残る可能性が高いので遺伝子組み換えの表示義務がある。輸入品は遺伝子組み換えで無いと言っても集荷輸送の過程で遺伝子組み換え品が混入してくる可能性があり、5%以下の含有率なら遺伝子組換えで無いということが許されている。そこで、輸入大豆を使う限り豆腐などから組み換え遺伝子が検出される可能性がある。
  
  今回の実験では大豆や大豆食品から取り出したDNAのうち、光合成関連遺伝子(すべての植物が持つ)に対応する配列特異的プライマーおよび組換え遺伝子に対応する配列特異的プライマーを用いてPCRで増幅する。増幅したDNAをアガロースゲル電気泳動で分離し、そのサイズを推定して光合成関連遺伝子と組換え遺伝子の有無を調べることにした。光合成関連遺伝子はすべてのサンプルに出てくるはずでDNAがうまく抽出されたかどうかの目安となる。

  遺伝子組み換え作物には除草剤耐性、害虫抵抗性、ウイルス抵抗性などがある。今回は組換え遺伝子に使われているプロモーター領域とターミネーター領域をそれぞれ特異的に増幅するプライマーをPCRに用いた。

 {実験}
 
 9日の朝10時に講義室に集合し、始めに出席をとった。出席者は18名。先ず、実験の手順を書いた資料、実験の背景となる説明のパワーポイント配布資料、グループ分けなどの資料を配布。 次いで、作物中の光合成関連遺伝子、組換え遺伝子や実験で行なう遺伝子の増幅法のPCRの説明と本日の実験の概要の説明を一時間弱した後実験を開始した。受講者はこのような実験になれていない人が殆んどなので18人の受講者の実験指導を井上先生、井上研究室の学生さんの佐々木さんと私で行なった。

  サンプルとしては遺伝子組み換えで無い小麦、遺伝子組み換え品が入った大豆粉、遺伝子組み換え品が入っていない脱脂大豆粉、遺伝子組み換え品が入った大豆粉、高野豆腐、豆腐、大豆水煮、きな粉、飼料用大豆、飼料用トウモロコシを用いた。豆腐などの加工食品はすべて原料の大豆はアメリカ産かカナダ産でスーパーで最も安かったものを購入したが、いずれも遺伝子組換えでないという表示がなされていた。

これらのサンプルを先ず乳鉢と乳棒で粉末状にした後、NucleoSpin Foodを用いて細胞やたんぱく質の分解、カラムへの吸着、DNAカラムの洗浄、DNAの溶出を行い微量のDNA溶出液を取り出した。この溶液中のDNAを一部取り出しPCR反応を行なう。マイクロピペット(ピペットマン)を使った微量の溶液を取り出すところは初めての人が多く、少し戸惑った人もいたようである。DNA抽出操作に予想以上の時間がかかり、全員のサンプルチューブをPCR装置にセットしてPCRを開始したのは予定時間を大幅に遅れて1時45分になってしまった。

             


  昼食後、3時20分に集まり実験に関する説明を追加してアガロースゲル電気泳動の実験を2グループに分けて始めた。電気泳動槽中にあるアガロースゲルのサンプル注入用の穴にピペットマンを使ってサンプルを挿入するのは慣れがいるので各自一度練習をしてから実際のサンプルを挿入した。慣れれば何でも無いが細かい手作業でうまく挿入できない人もいた。とりあえず全員がアガロースゲルのサンプルを入れて電気泳動を開始、135Vで25分にセット。

  電気泳動を終えたアガロースゲルをサランラップの上に置きLEDランプを照射する箱の中に入れ、ランプを照射。光合成関連遺伝子、組換え遺伝子のPCR産物のバンドが見えていた。これを、デジカメで写真を取った。この写真をパソコンでプリントしてもらった。

  当初から遺伝子組み換え品が入っていると予想されたものは遺伝子組み換えのPCR産物のバンドが見えていた。当然のことであろうが、飼料は遺伝子組み換え品であった。また、アメリカ産あるいはカナダ産の大豆で遺伝子組み換え品を使用していないと言う表示があった豆腐、高野豆腐などでは光合成関連遺伝子のバンドは見られたが組換え遺伝子のバンドは見られなかった。

  この写真あるいは照射している際肉眼で見た電気泳動の結果、非常にきれいなバンドが出ている場合、余り鮮明で無い場合などあった。バンドが見えなかった人もいたが、最初のDNAの抽出過程で問題があったと思われる。8割くらいがまずまずの結果であった。実験が終わったのは5時前。
 
  最後に皆さんに集まってもらいプリントした結果の写真を受講生に配布して説明をしたが、終了時間も迫っていたので説明不十分で理解出来なかった人もいたかもしれない。少し心残りの点である。受講者には実験のレポート、課題、講義と実験の感想などを提出してくださいと述べてこの面接授業を終わりとした。

  皆さんどういうふうに思われただろうか?帰り際に丁寧にお礼を言って帰られた方もいた。あまり理解出来ずに終わった方もいたようである。遠方からわざわざ此処まで来て受講された方もいた。そういう人にも納得していただけただろうか?

  今回の面接授業の実験に当たって、予備実験、当日の実験の実施、実験装置の借用など群馬大学工学部の井上先生には昨年同様多大な協力、支援を頂いた。また、いろいろ教えて頂き遺伝子組み換え大豆を使用して作った納豆を提供頂いた北海道学習センターの富田先生、名古屋学習センターでの実験の資料を頂いた加藤先生、遺伝子組み換えサンプルを提供頂いたアズマックス、さらに放送大学群馬学習センターの皆さんにはいろいろお世話になった。改めて感謝する。