放送大学群馬学習センター
平成23年度面接授業

面接授業1日目 
2011年12月3日(土)
講義 「たんぱく質とDNA」


  
昨年に引き続いての面接授業で昨年と同じ「たんぱく質とDNA」と言うタイトルで、4日は講義、5日はDNAに関する実験をやることにした。実験は昨年と変更し、また講義資料もそれに応じて適当に取捨追加をして改良を加えた。今回の面接授業は放送大学の正式単位として認定される。

  朝10時に受講者が講義室に集合した。20名の受講申請者がいたが、18名の出席者であった。今年も老若男女、また、経歴も色々で、さすが放送大学と感ずる。一番年長の方は85歳。年少の方は20代前半。資料をを配布しパワーポイントでプロジェクターに映写しながら講義を行った。外は冷たい雨が降っていて始めは講義室も寒かった。お年寄りの受講生には寒くてきつかったようである。

 講義の概要は昨年とほぼ同じだが、2日目の実験内容を変えたのでそれに合わせて講義の後半も大幅に変更した。
    1時間目は10:00〜11:25で、
      主要な生体構成物質とその役割、相互変換、ATP, アミノ酸とたんぱく質、たんぱく質の役割、酵素、ヘモグロビン
    2時間目は11:40〜13:05で、
      核酸(DNAとRNA), DNAとRNAの構造とその役割、生体内での生成、たんぱく質の生体内での生成、たんぱく質生成の調節、
    3時間目は14:10〜15:25で
      2時間目に引き続いた話と、遺伝子工学、遺伝子組み換え、遺伝子組み換え作物
    4時間目は15:40〜17:00
      人の細胞、染色体、DNA, DNAの解析技術(DNAを分子の大きさで分ける、微量なDNAの増幅、DNAの検出)、DNAの多型(DNA鑑定、診断)

  かなり盛りだくさんであるが、その分個々の詳細な話は省略した。たった18名の受講者であったが、質問をしてくれる受講者もあり皆さん熱心に聞いてくれた。最後の帰り際に面白かった、役に立ったと感想を述べて帰られた方もいて、やった甲斐があったと感じた。

  一年ぶりにぶっ続けに立って話をしたので、昨年同様、最後の時間になるとのどが痛くなり足が少しつってきて痛くなった。5時に終了時間となりホッとした。

  
面接授業2日目 
2011年12月4日(日)


実験: DNAの解析−16番染色体上のPV92座位にあるAlu配列の有無を調べる

 
 昨年はお酒の代謝分解に関与する酵素(ALDH2)の遺伝子の正常型と変異型の違いを調べる実験を試みた。、正常型の酵素を持っている人はお酒に強いし、変異型の酵素を持っている人はお酒に弱い。両者の相違はALDH2を作る遺伝子DNAの一塩基が変異して起こる。その一塩基の相違を調べようとしたが、どちらとも判別がつかない結果が多くの学生さんで出てしまった。そこで、この実験を学生実験として実施している2,3の大学の先生にメールで問い合わせた所、取り出した遺伝子DNAの純度を良くし、さらに、目的のDNAを増幅するPCR反応の条件を厳密にしなければならないなどいくつかの問題点があることが分かり、今年は別の実験をやることとした。

  {Alu配列
  この面接授業の受講者はDNA解析とかDNA鑑定などなどには関心はあるが、このような実験になれていないし専門家になる訳でもない。他にDNA組み換え大豆をDNAで調べる実験なども考えたが、結局、バイオ関係の試薬を販売しているBio Rad社が教育用キットとして販売しているAlu配列の有無を調べる実験をやることにした。このキットは必要な試薬類、器具類がセットになっていて、後は実験装置を用意するだけなので都合が良い。予備実験を含め面接授業の実施、実験装置の借用など群馬大学工学部の井上先生には昨年同様多大な協力を頂いた。

  人のゲノム(DNA)中にはランダムに挿入されたAlu配列と呼ばれている繰り返し配列が100万コピー近く存在する。この配列は約300bpの長さで、Alu 1と言う制限酵素で切断されることからこの名前がついている。Alu配列の一つが16番染色体のPV92と言う箇所にある。ここの箇所のAlu配列の有無は個人差がある。

  人は対応する染色体(遺伝子)を両親から一対受け継いでいるので、この箇所のAlu配列も以下の3通りがある。
1:両方の染色体にAlu配列がある +/+、
2:片方にAlu配列があり、もう一方に無い +/-
3:両方の染色体にAlu配列が無い -/-

  日本人の場合、Alu配列を持っている人の割合が多いが、Alu配列の有無は病気に掛かりやすいとか掛かり難いとか、ある薬物に感受性があるとかという遺伝情報とは無関係であることが知られている。

 {実験}
 
 5日の朝10時に講義室に集合し、始めに出席をとった。出席者は18名。先ず、実験の手順を書いた資料、実験の背景となる説明のパワーポイント配布資料、グループ分けなどの資料を配布。 次いで、上述のAlu配列や実験で行なう遺伝子の増幅法のPCRの説明と本日の実験の概要の説明を一時間弱した後実験を開始した。受講者はこのような実験になれていない人が殆んどなので18人の受講者を4グループに分け、そのうち半分は私が、半分は急用の井上先生に代わってこの実験に慣れている井上研究室の大学院生の松尾さんに実験指導をしていただいた。

  始めの各自の細胞をを頬の内側の粘膜から綿棒を使って取り出す操作は問題なく進行した。マイクロピペット(ピペットマン)を使った微量の溶液を取り出すところは初めての人が多く、少し戸惑った人もいたようである。細胞を細胞分解溶液中で加熱処理をして壊しDNAを溶解させる。この溶液中のDNAを取り出しPCR反応を行なう。1時頃無事に全員のサンプルチューブをPCR装置にセットしてPCRを開始することが出来た。このPCRの条件は35サイクルと少し長い。確実にPCR産物が生成するような条件である。

  昼食後、2時半から次の実験をやる予定であったが、PCRが未だ終わっていなかったので30分ほど実験に関する説明を追加して3時からからアガロースゲル電気泳動の実験を始めた。半分のグループは松尾さん、半分は私が実験指導を行った。電気泳動槽中にあるアガロースゲルのサンプル注入用の穴にピペットマンを使ってサンプルを挿入するのは慣れがいるので各自一度練習をしてから実際のサンプルを挿入した。慣れれば何でも無いが細かい手作業でうまく挿入できない人もいた。とりあえず全員がアガロースゲルのサンプルを入れて電気泳動を開始、135Vで30分にセット。

  電気泳動を終えたアガロースゲルをサランラップの上に置きLEDランプを照射する箱の中に入れ、ランプを照射。Alu配列があるDNAのバンドあるいは無いDNAのバンドが見えていた。これを、デジカメで写真を取った。この写真をパソコンでプリントしてもらった。

  この写真あるいは照射している際肉眼で見た電気泳動の結果、非常にきれいなバンドが出ている場合、余り鮮明で無い場合などあった。バンドが見えなかった人もいたが、最初のDNAの抽出あるいはアガロースゲルへのサンプルの注入で問題があったと思われる。実験が終わったのは5時少し前。
 
  最後に皆さんに集まってもらいプリントした結果の写真を受講生に配布して説明をしたが、終了時間も迫っていたので説明不十分で理解出来なかった人もいたかもしれない。少し心残りの点である。受講者には実験のレポート、課題、講義と実験の感想などを提出してくださいと述べてこの面接授業を終わりとした。

  皆さんどういうふうに思われただろうか?終わった後質問に来られた方もいたし、実験室の後片付けを手伝ってくれた方もいた。遠方からわざわざ此処まで来て受講された方もいた。そういう人にも納得していただけただろうか?

  皆さんが帰られまた実験指導を手伝ってくれた大学院生が装置を持って帰られた。後片付けをして帰宅に付いたが、どっと疲れが出てきた。