平成22年度面接授業

面接授業2日目 2010年12月5日(日)
実験: アルコールの代謝分解に関する酵素、アルデヒドデヒドロゲナーゼの遺伝子(ALDH2)の一塩基多型(SNP)を調べる

 
 5日の朝10時にパソコン実習室に集合し、始めに出席をとった。先ず、実験の手順を書いた資料、実験の背景となる説明のパワーポイント配布資料、グループ分け、アンケート、課題などの資料を配布。 次いで、本日の実験の概要の説明を行った。
 
  お酒をに飲んだ時、その成分であるアルコールは体内で先ず酵素アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)で脱水素反応をしてアセトアルデヒドになる。このアセトアルデヒドが有毒であり、お酒の悪酔いの大きな原因物質である。アセトアルデヒドは次の酵素アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)で脱水素反応をして無害な酢酸になる。
   ALDHにはALDH1とALDH2が有るが、普通働くのはALDH2である。ALDH2にはアルデヒド分解活性が強い正常型のALDH2(N)とアルデヒド分解活性の弱いALDH2(M)がある。ALDH2(N)を持っている人はお酒に強いタイプだし、ALDH2(M)を持っている人はお酒に弱いタイプであることが知られている。

   ALDH2(N)とALDH2(M)の違いはALDH2酵素の中の487番目のアミノ酸が正常型ではグルタミン酸であるのに、変異型ではリジンとなっている。この相違はALDH2の遺伝子DNAが一塩基異なっているために生ずる。 ALDH2遺伝子の12番目のエキソンの104番目の塩基が正常型ではグアニン(G)であるのに変異型ではアデニン(A)となっている。

   このような一塩基の変異が集団で生ずるケースは多いが、一塩基多型(SNP)と呼ばれている。一塩基多型は特定の病気になり易いとか、特定の薬物に対する感受性の相違に関係するので注目をあびている。

   人は父親と母親から対応する遺伝子DNAを一つづつ受け継ぐので、対応する遺伝子(対立遺伝子)を2本持っている。ALDH2遺伝子の場合、2本とも正常型のお酒に強いホモ正常型のNN型、お酒に弱いヘテロ型のNM型、お酒が飲めず悪酔いするホモ変異型のMM型がある。欧米人は殆んどがお酒に強いNN型、日本人を含め東アジアの人は変異型の遺伝子(NM型やMM型)を持っている割合が多いと言われている。

  今回の実験は他でも色々やられていてインターネットでも紹介されているが、実施に当たっては少しづつ異なるようである。

  受講者各自が自分の細胞を頬の内側の粘膜から取り出し、細胞を溶解してDNAを溶かし出す。次いでPCRで増幅してから電気泳動で分け蛍光で検出する。PCRの際、HDAL2遺伝子の正常型(104番目がG)と変異型(104番目がA)を区別するようにプライマーの末端をGの相補的塩基であるシチヂン(C)あるいはAの相補的塩基対であるチミン(T)にしておく。末端がCであるプライマーを使ったPCRと末端がTであるプライマーを使った2通りのPCRを使ってNN型、NM型、MM型を見分けようというものである。

  これらの説明を一時間弱した後実験を開始した。受講者はこのような実験になれていない人が殆んどなので18人の受講者を4グループに分け、そのうち半分は私が、半分は井上先生に実験指導をしていただいた。

  始めの各自のDNAを頬の内側の粘膜から取り出す操作は問題なく進行した。次のPCRであるが、マイクロピペット(ピペットマン)を使った微量の溶液を取り出すところは初めての人が多く、少し戸惑った人もいたようである。それでも1時前には無事に全員のサンプルチューブをPCRにセットしてPCRを開始することが出来た。このPCRの条件は35サイクルと少し長い。確実にPCR産物が生成するような条件である。

  昼食を井上先生と取り、2時過ぎから午後の実験。井上先生に調整していただいてあったアガロースゲルを冷蔵庫と間違って冷凍庫に入れたため、使い物にならなくなってしまった。井上先生からその話を聞いた時にあせったが、放送大学群馬学習センターにあった電子レンジを借りることが出来、井上先生に再度アガロースゲルを調整していただいた。 アガロースゲルの調整が終わるまでの40分くらい関連するアルコールの代謝分解に関する話あるいはSNPの話をした。

  3時ごろからアガロースゲル電気泳動の実験を始めた。装置は井上先生から借りた2台を用いた。半分のグループは井上先生、半分は私が実験指導を行った。電気泳動槽中にあるアガロースゲルのサンプル注入用の穴にピペットマンを使ってサンプルを挿入するのは慣れがいるので各自一度練習をしてから実際のサンプルを挿入した。慣れれば何でも無いが細かい手作業で手が震えてうまく挿入できない人もいた。また、この種の操作をやったことがある経験者もいた。最初のグループがサンプルをゲルに入れた後、マーカーDNAを端にいれ電気泳動を開始、135Vで30分にセット。

  ALDH2遺伝子が正常型か、変異型かはPCR産物である135塩基対のDNAがあるかどうかを見分けるだけである。青色の光を発するLEDランプを電気泳動中のゲルに当てるとうっすらとDNAのバンドが見えている。そこで、電気泳動はは20〜25分で停止した。

  その後、電気泳動を終えたアガロースゲルをサランラップの上に置きLEDランプを照射する箱の中に入れ、ランプを照射。DNAのバンドがくっきりと見えた。これを、デジカメで写真を取った。この写真をパソコンでプリントして各自に相当する部分の写真を配布した。

  この写真あるいは照射している際肉眼で見た電気泳動の結果は、お酒に強いとか弱いとかで予想とあっていた人も少数だがいた。しかし、殆んどの人で正常型(HALD2(N))用のプライマー使った場合、変異型(HALD2(M))用のプライマーを使った場合の両方でPCR産物が出てきてしまった。非特異的なPCRが起こり、いずれの場合でも135塩基対のPCR産物が生成したことになる。

  予備実験をやった時、両方のバンドが出てきた。自分の場合、ヘテロのNM型なので両方出て来たので問題ないと思っていた。しかし、ホモ型なら一本しか出ないはずである。

   自分のサンプルだけでなく他のサンプルも用いた予備実験で、PCRの条件、プライマー、用いる酵素などをもっと検討して、このような非特異的なPCR産物が生成しないように検討すべきであったと思うが、残念ながらそんなことをする余裕が無かった。

   最後に、受講者全員に集まってもらい、結果の説明、特に非特異的にPCR産物が出来てしまった理由の可能性などを述べたが、当初の期待通りの結果が出なかったのは本当に残念であった。

  受講者には実験のレポート、課題、講義と実験の感想などを提出してくださいと述べてこの面接授業を終わりとしたが、皆さんどういうふうに思われただろうか?最後に質問に来られた方が何人かいたが、専門的なことを良くご存知の方もおられた。特にびっくりしたのは遠方からわざわざ此処まで来て受講された方が少なからずいたことである。そういう人にも納得していただけただろうか?

  皆さんが帰られ、井上先生が装置を持って帰られた。実験室を片付けて帰宅に付いたが、どっと疲れが出てきた。

 井上先生には予備実験から本番までの実験で助けていただいたし、必要な装置を貸していただいた。本当に感謝している。

  今回は、初めてで不慣れで予期しないことであせったりしたが、もし、来年もう一度この実験の授業をやる機会があれば、もう少しマシな結果が出て来るようにしたい

  井上先生の好意で実験装置をお借りしたが、このような実験は高校生から社会人まで興味を持ってやってみたいと思う人は大勢いるのではと思う。装置一式でおそらく100万円あれば購入できるのではと思う。社会人教育センター、生涯学習センター、理科教育センターなどの組織が協同で揃えて使いたいグループ、人に指導して貸し出したりなどの制度が無いかな思った。

面接授業1日目 2010年12月4日(土)
「たんぱく質とDNA」

  今回の面接授業は放送大学の正式単位として認定される。講義は「たんぱく質とDNA」と言うタイトルで、4日は講義、5日はDNAに関する実験をやることにした。

  朝10時から、パソコン実習室に受講者が集合した。まず出席を取る。20名の受講申請者がいたが、18名の出席者であった。老若男女、また、経歴も色々のようで、さすが放送大学と感ずる。資料をを配布し。プロジェクターと机の上にあるディスプレーにパワーポイントの像を映写しながら講義を行った。

 講義の概要は以下の通りである。
    1時間目は10:00〜11:25で、
      主要な生体構成物質とその役割、相互変換、ATP, アミノ酸とたんぱく質、たんぱく質の役割、酵素、ヘモグロビン
    2時間目は11:40〜13:05で、
      核酸(DNAとRNA), DNAとRNAの構造とその役割、生体内での生成、たんぱく質の生体内での生成
    3時間目は14:10〜15:35で
      2時間目に引き続いた話と、遺伝子工学、遺伝子組み換え、遺伝子組み換え生物
    4時間目は15:50〜17:05
      人の細胞、染色体、DNA, DNAの解析技術(DNAを分子の大きさで分ける、微量なDNAの増幅、DNAの検出)、DNAの多型(DNA鑑定、診断)

  かなり盛りだくさんであるが、その分個々の詳細な話は省略した。たった18名の受講者であったが、この分野について精通されている方も何人かおられたようで、そういう方にとっては物足りなかったかもしれない、一方、この分野に付いてよく知らない人にとっては理解しがたいものだったかも知れない。
  各時間の講義が終わった後、質問をしてくれる受講者もあり、皆さん熱心に聞いてくれたようでやった甲斐があったと感じた。

  しかし、ぶっ続けに立って話をしたので、最後の時間になると声が少しかれてきてのどが痛くなり、足が少しつってきて痛くなってきた。5時過ぎに暗くなって終了時間になりホッとした。久しぶりの長時間の講義であったが、歳を取ったことを感ぜざるを得ない。
   
  後日、授業評価のアンケートが出されることになっているが、どうなっているのか少し気になる。
  

さす面接授業準備 2010年12月3日(金)

  放送大学群馬学習センターで客員教員として昨年より週一回一時間のゼミ講義を担当していたが、今年は新たに面接授業を12月4(土),5日(日)に行うことになった。
  面接授業は「たんぱく質とDNA」と言うタイトルで、4日は講義、5日はDNAに関する実験をやることにした。
  授業時間は2日とも朝10時から夕方5時15分までで、1時間25分の授業を休みを挟んで4回づつ、計11時間20分になる。年度初めの3月に授業概要を書いたシラバスを提出した。実験をやるので受講生の数は多く出来ない。定員20名でやることにした。

 放送大学で実際に実験をやる授業は少ないので定員一杯の受講希望者がいた。受講者名簿を見ると地元群馬県以外に、東京、新潟、栃木、埼玉などからの受講生がいたのには少し驚いた。

  講義はパワーポイントを使ってやることにした。定年退職前に大学の講義で使った資料、パワーポイントあるいは放送大学ゼミ授業で使った資料、パワーポイントを適当に加えて、本やインターネットなどから取ってきた資料を参考にしてパワーポイント、配布資料を作製した。新たなパワーポイント、配布資料の作製は定年退職前にも良くやっていたことなので、以前やっていたことを思い出しながら自宅のパソコンを使ってやった。

  問題は実験である。放送大学群馬学習センターには30人くらいが行うことが出来る立派な実習室がある。化学、生物、物理に関係した器具、装置が沢山ある。しかし、これらは放送大学設立当時の20年前に購入された古いものが大部分で故障で使用できないものもあった。その後は実験関係の予算は非常に少ないとのことであった。

  製氷機、蒸留水製造機、恒温槽は使用出来るが、DNAに関係した実験などをやる装置、器具類、試薬類は殆んど無い。それでも必要な試薬類、使い捨てプラスチック器具類、冷凍庫は購入して貰うことが出来た。後は比較的高価な装置類 (PCR装置、DNA蛍光検出装置、電気泳動装置、小型遠心分離機、小型攪拌装置)などが必要となる。

  放送大学客員教員でも、現役の大学の先生なら自分の所属する研究室の器具、装置類を一時的に持って来て実験の授業をやることが出来るが、自分はそういう立場には無い。関連する予備実験をやることも出来ない。

  そこで、以前勤務していた大学の若手の知り合いで、関連する学生実験を担当している井上先生に協力をお願いした。必要な装置類を借していただき、予備実験、実験準備、受講生に対する実験指導など色々やっていただけることになった。