4-1-7.基礎研究の企業化

私は自分では基礎研究を中心にやって来たと思っている、だが、自分の研究を基に企業との方と共同で企業化を目指したものに以下の5件ある。

 1.2-5A,2-5A合成酵素活性の免疫化学的微量分析法 : E社

 2.核酸分離用HPLC充填剤及び充填カラム : NK社

 3.核酸蛍光標識化するチミヂン誘導体 : G社

 4.L-チミヂン(B?型肝炎治療薬)の合成 : A社

 5.メッセンジャーRNAのキャップ部 : NS社

上記のうち、1. はビジネスとしても成功を収め、特許料を研究費として出して頂いた。一方、取りあえず実用化されたがビジネスとしては?であったのが2,3. である。4. は現在検討中であるが現実は厳しそうである。また、5. はその初期段階で断念したものである。うまくいかなかったものの理由はそれぞれにあるがやむを得ないであろう。いずれにしても、企業化するためには担当者の熱意、努力は欠かせないと思う。上記の研究の多くは当初、実用化を念頭にして申請するという科研費の試験研究やNEDOなどに申請したが、全て却下されてしまった。1. の成功したものも当初は一部の専門家から強い批判がなされて、その結果を納得してもらうまでしばらくかかった。

2−5Aの診断薬の研究は群馬大学に赴任する直前に私一人でやった古い話であるがその経緯を詳しく記す。1980年頃、インターフェロンの抗ウイルス作用に関連した2?5Aの研究をやっていた。当時、東大薬学部の助手仲間であった生物系の研究室の後藤先生にその話をすると、彼は抗体を創ったら面白いのではと言ってくれた。そこで。抗体と免疫学の本を読んでみた。確かに面白そうであった、しかし、抗体作りに協力してくれるとは仰ってくれなかった。抗体作成には2?5Aの抗原の他、免役するウサギが必要であった。その後、RNAオリゴマーに対する抗体の作成とその性質の研究を三菱化成生命化学研究所の四宮博士がやっておられることを知った。そこで、ある学会で初対面の四宮博士に2?5Aの抗体を共同でやりませんか?と申し入れた。四宮博士は快くこの申し出を受け入れてくれたので、共同研究が始まった。私が2?5Aの抗原を作成して四宮博士がこれをウサギに注射して免役し、抗2?5A抗体を創ることが出来た。また、14?Cでラベル化した2?5A誘導体を化学的に合成してプローブとして用い、2?5Aのラヂオイムノアッセイが出来るようになった。この結果は学会発表するとともに論文として出した。しかし、このアッセイ法では14?C標識化2?5Aプローブを用いているので高感度は得られず、生体内にあるごく微量の2?5Aの測定は出来ない。しかし、さらに検討する価値はありそうである。そこで、四宮博士を通して会社の方で企業化研究を検討してみませんか?と打診して見た。その結果、三菱化成としては関心がないという事であった。仕方がないこの研究はこれまでかと思っていた。その数ヶ月後栄研化学と言う会社の石橋さんという方から突然電話が来て、2?5Aに関するラヂオイムノアッセイについての私の研究を聞いて、共同で診断薬としての企業化研究を検討したいとのことであった。渡りに船で、石橋さんとお目にかかり、診断薬として実用化するための条件、どのような抗原、どのようなプローブが望ましいかを伺い議論した。それまで私は種々の2?5A関連化合物の合成を手がけていたので、それらの経験を基に石橋さんの意見を取り入れて、2?5Aの誘導体化による放射性プローブと抗原の合成を進めた。その抗原を使った抗2?5A抗体の作成及び放射性標識化プローブの評価は石橋さんのところでやって頂き、結果について色々議論を重ねた。その後2,3の改良点はあったが、基本的には自分がデザインした2?5A誘導体が予想以上のパフォーマンスを見せてくれて、ごく微量の血液中の2?5Aあるいは2?5A合成酵素活性のラヂオイムノアッセイが可能になった。この微量2?5Aのアッセイ法がウイルス病やインターフェロン療法のモニタリングなどに使えるかどうかを検討して、実際の応用、健康保険適用の診断薬として企業化を行うことが出来たのは栄研化学の石橋さんの力、努力に負うところが多い。この点、石橋さんに感謝したい。
   この診断薬に関する特許も残念ながら二,三年前に切れてしまった。以前と比べて使用量は少ないものの、他に類似製品が無く未だ売れていると聞いた。